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2007.02.24 (Sat)

私の腕の中で、

「私の腕の中で、妻がかさかさと燐酸石灰の音を立てていた。
 わたしはそれを『ごめんね、ごめんね』といってるのだと聞いた。」
                       『ロザリオの鎖』



原爆が落ちて三日目の夕方、必死の救護の活動も一段落したので、隆はやっと許しをもらって、はじめてわが家に帰りました。

三日前の見なれた家並みや木々は消え、どこも同じように灰となっていました。あちらこちらで骨を焼く火が赤く燃えていました。そばでしょんぼりとしゃがむ人影があります。

 
わが家のあったところまで来ました。やはりすべてはなくなり、焼け跡になっていました。
 
台所があったあと、茶わんのかけらのかたわらに、灰色にまみれた黒い塊を見つけました。

(緑の骨だ。)

近寄って手をかけると、まだ、ぬくもりがありました。

拾い上げると、あまりにも軽く、ぽろりとくずれました。骨にはロザリオの鎖がまつわりついていました。
 
焼けたバケツに骨を拾いました。その骨を胸に抱いて歩き出しました。

(わたしの骨を、近いうちに妻が抱いていく予定だったのに……。運命とは分からないものだ。)
 
バケツを抱く隆の腕のなかで、骨がかさかさと音をたてていました。

「ごめんね、ごめんね。……。」
 
隆には、妻がそうつぶやいているように聞こえるのでした。

永井隆全集〈第3巻〉 永井隆全集〈第3巻〉
永井 徳三郎、永井 隆 他 (2003/08)
サンパウロ

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